251123 栃木
- 光太郎 笠原

- 5 日前
- 読了時間: 4分
10月の九州遠征を終え、12月の広島遠征を控えた11月、今年のフルの勝負レースにのぞむ。関東屈指のエリートランナーレース「大田原マラソン」だ。
会場への導線がすばらしい。
東京から参加のランナーは、新幹線の早い時間で那須塩原駅に行く。そして駅では、適切な時間に、適切な台数のバスが用意されている。会場に着いてからの案内もよい。体育館で貴重品だけ預けて、他の荷物は雑多に置く。とても合理的で無駄のない運営だ。
気温はそこそこ。くもっていて日差しなし。無風。
そしてなにより自分の体調が良い。
絶好のコンディションで、「今日自己ベストを出さないと、当分出せない」と意気込んで走った。
サブ2:50ペース集団が今日の参照点。これより先行していれば成功レースで、これに抜かされると失敗レース。前半はその集団にひそんで、省力で進む。
大会の特徴として、一般給水(ゼネラル)が少ない(全8か所)という欠点がある。自分は序盤からふんだんに水分補給していきたいタイプだから、少ない給水のタイミングはとても大事。集団で給水所通ると、かなりごちゃつく。それを嫌って18km地点で前に出た。結局そのまま集団には戻らず先行して走った。
20-25kmはまっすぐに続く直線で、ゆるやかな下りになっている。ここは出力をあげてもいいところ。意識としては少しペースを上げてみたつもり。
25kmで折り返した後は、緩やかな上り基調になる。ただ、そこまでの勾配ではないから、あまり負荷が増えた感じはしない。今日は風も穏やかだ。
32-33kmで急坂があり、そこはみんなのペースがゆるむところ。それを越えると再びゆるやかな勾配になる。でも後半の急坂で被ったダメージはずっと尾を引いていく。
35kmで小さな迂回路があり、180度の折り返しがある。そこで後ろにいるサブ2:50の集団との距離を確認してうんざりする。あんまり離れていない。引き離したつもりでも、貯金はわずかだった。そりゃそうだよ、だって2:50ペースなんだから。自分の実力からして引き離せるわけがない。気にしないでいこう。
そこからの道のりは、ただ耐えることを主眼に置いて、粛々と進んでいった。
30kmまでの5kmごとのラップを見ると、すべて19分40秒前後で変わらず走っていて、とてもフラットなペースのように見える。ただ、走ってる自分の感覚としては、前向きになったり、意図的にセーブしたりして、揺れ動く感情をコントロールしつつ走っていたから、凹凸のある前半戦だった。
それとは対照的に、徐々にペースが落ちていった後半戦は、感情的には一定で、「とにかくこれ以上ペースを落とさず進む」という気持ちしかない。大田原マラソンのコースは、ランニングに没頭するには最適な「平板」な景観の道のり。前回出た時の後半もそんな感じだったけど、走ること以外に思考が回らないので、コースの記憶がまったくない。正に記録を目指すための大会だ。
終盤は、地元の方々、エイドのボランティアの中高生たちの声援がとても熱くて心に響く。それに応えて「よし」とか「おう」とか言葉にならない言葉を発する。彼らの熱意に応える意味で発した言葉でもあるし、気持ちを高めるため、自分に対して発した言葉でもある。
ゴール地点のトラックに入っても、2:50集団の足音は聞こえず、このレースを成功に終えられることを確信する。最後のストレートに入ったところで、2:48台でゴールできることもわかったから、その瞬間に一気に喜びが沸き上がってきた。だから、このレースを本当に楽しめたのは最後の50mだけだったかもしれない。でも、その50mの喜びを味わうために、長い道のりを進んできたんだな。それは大田原で走った42.145kmでもあるし、それ以上に、レースにたどり着くまでのトレーニングで走ってきた道のりでもある。
ネットタイム 2:48:39 自己ベスト達成!
ゴールの瞬間は、無意識のうちに握りこぶしを作っていた。自然と喜びがあふれる時は、なんともいえず気持ちがいい。
ひとりのランナーが、生涯に何度「自己ベスト達成」を経験できるだろう。フルマラソンを走っていて一番の喜びの瞬間が、これを確信した時だ。そう何度も経験できることじゃない。自分は幸運なことに10回以上更新できた。いつかは頭打ちになって、記録が伸びなくなるだろう。でもいまはコンディションよくレースに臨めば、更新していける可能性がある。そう、「可能性がある」ってことが一番大事なこと。ふたを開けてみないと、結果はわからないけど、開けないうちからわかっているよりずっといい。だってレースに臨むワクワク感が違うから。
次の勝負レースでもまたこのワクワク感を経験するために、そしてあの喜びの瞬間をアップデートするために、また走っていこうと思う。
『えらくもないし りっぱでもない
わかってるのは 胸のドキドキ
答えでもない本当でもない
信じてるのは 胸のドキドキ
胸のドキドキだけ』
「胸がドキドキ」(甲本ヒロト・真島昌利 作詞)




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