251013-14 佐賀・長崎
- 光太郎 笠原

- 2025年11月25日
- 読了時間: 12分
更新日:2025年12月28日
10月に長崎で開催されるフルマラソンへの参加を計画する。
そこへ行くのに一番便利なのは、空路で長崎空港を使う方法。ただ、ちょうど秋の行楽シーズンの三連休に当たるからなのか、チケットがものすごく高い。
全都道府県制覇まであと一歩に迫ったところで、残った「佐賀」「長崎」の地図をあらためて見ると、隣同士だということに気付く。試しに佐賀空港までのチケットを調べてみると、長崎の半額くらいで行けることがわかった。ならばと、空港は佐賀を使って、そこから長崎へドライブして大会に出てくる、という計画に変更して実行した。
7月にしおりちゃんの妊娠がわかった。しかもなんと双子とのこと。うれしい報せだった。そしてびっくりする報せでもあった。ここ数年の自分を取り巻く環境の変化は目まぐるしい。正に人生の転換期を迎えている実感がある。
その喜びをかみしめつつも、「全都道府県制覇の計画にしっかりケリをつけなくては。」という思いも強くする。しおりちゃんとも約束して、出産前にこの計画を完遂することを決意する。そんな訳でこの最終盤になって2県いっぺんにクリアできるのはとても大きい。移動は大変だけど、がんばって回ってこよう。
だから、佐賀空港着陸直後の佐賀県でのランは、とても短いながらとても意味を持つランになった。あくまで「自分にとっては」という意味だけど。
空港からほど近い「干潟よか公園」で走る。有明海の干潟に作った公園だ。その公園も、空港からそこへ向かう道も、干拓地の雰囲気を十分に味わえる。とにかく「平ら」だ。自分がいままでに見た光景の中では、最も平らな場所に来たという実感がある。とにかく高低差というものがない。一面に広がる畑と田んぼ。地平線のはるか向こうに山あいが見えるけど、走っていて360度視界良好な感じ。ここで事故ることは絶対にないっていうくらい視界が開けた場所だ。
九州地方は異例の残暑が続いてる時期だ。気温30℃超え。時間は正午近くで、日差しが一番強い時間。前日の東京は昼でも20℃に満たない気温だった。かなりのギャップがある。そして、干拓地ならではの特徴として、まったく日よけになる場所がない。軽く走るだけにしようとゆっくり進む。それでも暑い。じりじりと陽にさらされて、かなりキツいジョグだ。この程度でまいってるようだと、翌日のフルが不安になるけど、暑いものは暑い。気分だけ感じ取れたところで、早々に引き上げた。「走った」という実績が大事。間違いなく今日は「佐賀で走る」ことができた。多分気温がそこそこだったら、とても心地よいランニングロードなんだろうと思う。次はそんな時期に来たい。
その後のランチは、武雄にある「井手ちゃんぽん」へ行く。幹線道路沿いではあるものの特に栄えた場所にある訳ではない。でも、人で溢れてた。はじめに通った時は駐車場にも入れないくらいで、あきらめかけたけど、せっかく近くまで来たからと、一回りしたあと再訪、なんとか駐車場に入れた。店の前では20~30人が列をなして待っていた。ここもまた日よけのない場所で、待つのはかなり暑かった。回転率はよくて、20分くらいで入れたときは心底ほっとした。
カウンター席に座って注文する。目の前が厨房で、10人くらいの店員さんがてきぱきと働いている。一気に6人分くらいのちゃんぽんを作っていて、手際のよさに感心する。野菜の量がめちゃくちゃ多い。それ見てるだけでも大きく期待が膨らんだ。自分はさらに多い「野菜大盛りちゃんぽん」を注文。セットで頼んだ小ライスのメニュー名は「小めし」。なんだか趣きのあるネーミングだ。
さっそくもりもりの野菜から食べてみると、しっかり味付けされていてそれだけ食べても十分おいしい。そしてよく炒まっていて丁寧に作っていることがわかる。もちろんメンもスープもよかった。すごく気に入った。大盛りに見えたけど、ペロッと平らげられる。こういう料理を出しているお店は、いま住んでいる界隈にはなかなかない。旅情を感じられるランチになった。
34号線を延々とドライブして長崎の方へ向かう。
道中も結構楽しい。嬉野温泉の道の駅に寄る。佐賀県は焼き物の名産地。有田焼とか伊万里焼とか、いろんな焼き物が置いてある。眺めているだけでも楽しかった。嬉野はお茶の名産地でもある。お土産にひとつ買ってきた。
長崎県に入ると、東彼杵(ひがしそのぎ)から見える海岸線に目を奪われる。空港近くの平板な地形とはまったく違う。目に映る大村湾は内海ってこともあってとても穏やかな海。それとは対照的に、海岸はとても入りくみ起伏にとんでいる。自分が見た海岸線の中では、和歌の浦とかに似た印象だった。たしかあそこも和歌の名所だったな、なんて思いつつ車を走らせていた。
その日の宿は、大村の港近くにある「大村ヤスダオーシャンホテル」という古いホテル。チェックインの用紙を書いていると、それを覗いた受付のおじさんが「東京からですか?東京も暑いでしょうけど、こっちは湿度あるから余計暑いでしょう。」なんて声かけてくれた。たしかに夕方になっても汗かくくらい暑い。
近くの大村公園と玖島城跡に散歩してみる。城跡ではおなじみの、石垣に囲まれたクランクと、細かい石段のコンビネーションが続く。のぼりきった先に天守閣はなく、猫たちが悠々と寝ころんでいた。写真を撮ったら、後ろの看板の「一切責任を負いません」という文字もおさまっていた。なんだか猫の様子とマッチしていて面白かった。
その脇のイオンモールのスーパーで買い物していった。九州に来ると楽しみにしている菓子パンがある。リョーユーパンの「マンハッタン」だ。硬めのクッキードーナッツ生地にチョコレートがコーティングされたもの。ミスドのチョコファッションに似た感じで、こっちの方がジャンクな味わいがある。前に熊本出身のデザイナーさんにもらい、食べてみたらとても自分好みだったことからファンになった。それ以来、九州でスーパーに行く機会があると必ず探す。そして必ず置いてある。逆に九州以外で置いてあるところを見たことがない。それくらい極端に地域差が出る商品だ。もちろん大村のイオンにも置いてあったから、ひとつ買ってきて、大会当日の朝食のあとに食べた。やっぱり好きな味だ。
レース当日。気持ちよく朝を迎えて、意気揚々とホテルを出発する。会場は諫早市の長崎県立総合運動公園。
自家用車で行ってよいというのがうれしいところだ。大村からは30分足らずで行ける。会場には1時間前くらいに到着。朝から晴天で、気温がぐんぐん上がってくることが実感できる。ウォームアップなんて必要ない。だってすでにウォームだから。とにかく日陰にいて、消耗しないように過ごす。スタート10分前にゴールラインに行って、ちょうどよかった。
「トラスタ・リレーマラソン」という名前の大会だ。1.5km×28周という気の遠くなるような周回数のレース。長崎県のフルマラソンは少ない。それもあってか、この厳しい規定の割には人がたくさん出ていた。名前の通り、リレーマラソンがメインで、そちらは118チームがエントリー。総勢2,000名近くが競技場に集ったとのこと。自分が出場した個人部門も172人が走ったようだ。その中で完走したのは45人。厳しい条件でのフルだったことを物語っている。
最高気温31℃。スタジアムの屋根の影と、並木道の木陰がわずかにあったけど、それも時間とともになくなって、レース終盤はずっと陽に灼かれながら進む。高低差もある。トラック内はもちろんフラット。外に出てしばらくは下り基調になる。その後、給水とシャワーミストがあって、この辺はリラックスして走れる。キツいのは、トラックへ戻るパート。ここは上り基調だ。しかも近づくにつれて勾配がキツくなる地形で、後半はしんどく感じる。サブ3ペースだと、だいたい1周が6分20秒。ペースセッターが各セクションにいて、そのカテゴリーごとにエントリーするシステム。自分含めサブ3ペースには40人強が参加していた。序盤はペースセッターを先頭に40人程度の大集団で走ることになる。
今日のプランはこのペース集団についていくこと。先月出た大会では、暑さで後半しんどくなった。今日はその時以上に厳しい気象条件。まずはついていけるところまでついていくってことだけ考えた。そう考えると、ペース判断もゆだねられるし、壁も作れるし、気分的にはラクに走れる。暑さだけが心配だけど、日差しが強い日の「あるある」で、案外走っちゃった方が、風を感じられるから涼しく感じるっていうことがある。ただ、どうしても汗だけは止まらない。10kmに満たない段階で、シャツは濡れて身体にべっとり密着するほどになる。それがパンツの方まで影響して、だんだん服全体がずぶ濡れの状態になる。自分から出た汗なのに服が重く感じるのは不思議だ。ただ、15kmくらいでその状態だったから、走ってるうちに慣れてくる。徐々に不快感を感じずに走れるようになる。そんな訳で、順調な前半を過ごせた。
14周でハーフを走り終えると、集団の人数が少なくなってくる。自分は常に集団の前の方につけて、後ろを振り返らなかったから、なんとなくしか状況はわからない。それでも明らかに足音が減ってきているのはわかる。この暑さでペース落とす人も多いし、リタイアする人はもっと多い。こんなレースでサブ3目指すのは、よっぽど暑さに鈍感な無頼漢だけだろう。他の人は気にせず、ひたすら前を向いて進んでいく。
20周すぎたあたりで、集団は3人くらいになった。多分なった気がする。この辺でも周りは気にしない。ペースセッターとあわせて6人くらい。「大丈夫ですか?」とか「最後まで行けそうですか?」とか声かけもはじまって、連帯感が出てくる。まだツラい感覚はない。足の痛みもないし、息も整っている。なんとかペースは持続できそうな感じだ。でも、徐々に疲労感はたまってきていて、ペースアップすることは無理だなとあきらめる。
残り3周になったところで、同じ集団で走っていた2人がペースアップしていった。そこについていくことはできない。この最終盤でペース上げられるのは本当にすごい。心の中で拍手を送りながら、自分はペース落とさないことだけに集中して走る。
集団が崩れたから、はからずもサブ3のペースセッターは、自分ひとりを先導してくれるかたちになる。最終的には2人のセッターが自分の前に壁を作ってくれた。時折ペットボトルの氷水を手で渡してくれたりもする。優遇された状況になり「これはバテるわけにはいかない」と覚悟も決まる。
残り一周になったところで、かなりしんどくなる。セッターさんからは「もう大丈夫ですね」って言われるけど、あと1.5kmはそこそこある。特に周回の最後の坂はキツかった。ラップを見ると、やっぱりその周回は20秒程度遅くなっている。それでも食いしばってついていく。トラックに入ったところでようやく安堵した。「やりましたね」とか「最後はかっこよく終わってください」って声かけされる。ゴールテープも用意してもらったから、その気になって、両手をあげながらゴールした。
2:57:12のタイム。コースに向かって一礼した後、真っ先にペースセッターふたりに握手してもらう。「サブ3ペースセッターと一緒にゴールした割には全然早いじゃないか」なんてツッコミはさておき、これだけ素直に人に感謝できるレースはなかなかない。他力本願で出せたサブ3とも言える。その一方で、この炎天下に最後までほとんどペース落とさずに達成できたことは、やっぱり他力本願じゃないと誇ってもよい気がする。なんにしてもとてもよい高揚感を持ってレース会場をあとにできた。いやあ、暑かったけど、我ながらよく耐えた。


レースのあとのランチは、会場から車で5分ほどのところにある「魚荘」というお店へ行く。名物の「楽焼うなぎ」を食べた。楽焼という器に盛られたうなぎのかば焼きをご飯とともに食べる。うなぎ大好きだ。「ランの後の疲労回復にうなぎがいい」という話は昔から知ってはいたけど、これまでマラソンのあとにうなぎを食べる機会があんまりなかった。今回は絶好のチャンス。場所といい、時間といい、これ以上にないほど好条件が揃っていた。
うなぎはふっくらとしていてとても柔らかい食感。それでいてあんまり脂っぽくないから走った後にはちょうどよい。たれは割と甘め。これも甘ったるい感じじゃなくて、さわやかな甘さだ。総じて言うと「めっちゃおいしい」。幸せな回復ランチ時間を過ごすことができた。
帰りのフライトは18時台の佐賀空港発。余裕のあるスケジュールだ。時間もあるし、せっかく佐賀にまた戻るから、温泉にでも入っていこう。帰り道のルートを検索して「嬉野温泉公衆浴場 シーボルトの湯」というのが目に入ったから、行ってみることにする。そこまでの道中にラジオから流れてきた、東京事変「閃光少女」と、GO!GO!7188「浮舟」が、その時の自分にはささる曲で、なんだか記憶に残った。かっこいい曲だ。着いたところは、オレンジの屋根と、門構えが派手派手しい銭湯。「大正ロマン風のゴシック建築物」だそうです。川を挟んで、公園の真向かいにある。男性浴場の窓からは、公園を歩く人の顔がはっきりと見える。おじいちゃんばっかりだから、そういうの気にしないんだろうな。とても牧歌的な空気の漂ういいお風呂だ。フル走ったあとに入る温泉は、この上なく気持ちいい。湯船につかって、全身を伸ばして、深呼吸すると、みるみる疲れがとれていく感覚がある。リフレッシュするには最高の場所だ。風呂上がりに棒アイス買って食べた。関東ではあんまり見ないミルクセーキを模したアイス。ものすごい甘くて、ものすごくその時の身体が欲する味だった。
そんなこんなのレース後リカバリーを経て、無事にその日のうちに東京に戻れた。
最後に、レース後駐車場でクールダウンしていた時のエピソード。
後部ドアをあけてその影で涼んでいると、隣にも走り終えたランナーと思しき若い男性が同じようにクールダウンしていた。自然と「お疲れさまでした。」と声をかけあう。記録を聞かれ「サブ3達成できました。」と答えると、「すごいですね!自分は暑さでリタイアしちゃいました」と返された。その後、普段の練習方法とか、今後の大会出場予定とか、会話が盛り上がる。彼は佐世保出身のランナーで、いまは大村市に住んでいるとのこと。熊本城マラソンでサブ3を達成したことがあって、今年は別府大分マラソンを大目標にしているようだ。
とてもさわやかな好青年。リタイアした後とは思えないほど屈託ない笑顔で話してくれて楽しかった。九州出身の知り合いが何人かいるけど、共通して感じるのは、人に警戒感を与えない人懐っこさを感じること。話していてとても楽しかったし、いろんなことを話してあげようという気持ちにさせてくれる。
会話の最後はこんな感じだった
「いま全都道府県制覇を目指していて、長崎が46県目なんです」
「へえ、それめっちゃ楽しそうですね!いいなあ。あとひとつはどこなんですか?」
「広島です。今年の12月に走る予定にしているんです」
「そうですか!今年中に達成できそうなんですね。すごいなあ、がんばってください」
フィナーレへのプロローグとして、とても楽しい会話ができた。
そんな訳で次の広島でのランで、目標を成就することになる。そう考えると感慨深い。彼が言ったように「楽しい」企画だったから、最後まで楽しんでいきたいと思う。





















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