250323 徳島
- 光太郎 笠原
- 4月15日
- 読了時間: 9分
東京マラソンを走り終えた数日後の深夜、ベッドで寝ていると急な腹痛に襲われた。はじめは我慢できる程度だったけど、しばらくすると痛みが激しくなる。これは朝まで我慢できないと思い、救急車を呼んだ。近くの救急病院へ運ばれて検査をすると「尿路結石」との診断。点滴と座薬で痛みを散らして、なんとか痛みをしのぐ。その後、落ち着いて朝になるまでには和らいでいたから、帰宅した。
それにしても苦い経験だった。
その検査の中で血液検査があり、CK値という血液中の酵素の量の数値が異常に高かったとのこと。尿路結石に関係ないはずなのに「普段、激しい運動とかしていますか?」って聞かれるから「なんのことやら」って思ってた。どうやら疲労がたまると高くなる数値のようで、それを見て確認していたようだ。東京マラソン走った話をしたら「通りで」って納得してた。でも、若い男性医が「マッチョですね!」って言ってたのは多分診察には関係ないこと。痛みがピークの時に「鍛えてますか?」って聞かれる。でもこっちは雑談できる余裕ない。声も絶え絶えに「はい、、」ってだけだ。それ聞くのいまじゃないでしょ😅
体調も回復した3月22日から遠征で徳島県を訪れる。
「とくしまマラソン」の出場が目的。この大会には因縁がある。随分前から出場したかったもののなかなか出れなかった大会だ。
はじめにエントリーしたのが20年3月開催の時。正にその月からコロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されて、大会が延期となった。自分の記憶では出場権が保持されたまま次年度に持ち越しになったものの、結局21年も中止。満を持した22年大会にあらためてエントリーするも、これもまた中止となった経緯があったと思う。5年越しでやっと出られる大会だ。
前日の観光は控えめだ。「徳島ラーメン」は是非食べたかったから「銀座一服」というお店で食べた。もちろんおいしかったし、店自体がゴミゴミしていない普通の町中華屋さんで、とてもよかった。一緒に頼んだ餃子もおいしかった。皮が柔らかくてシュウマイを焼いたような感じ。初めて食べる食感だった。また食べたい逸品だ。
近くにあった「阿波踊り会館」もちらっと覗く。本当はそこから眉山の山頂までロープウェイが延びているから行きたかったんだけど、冬季の点検期間でその週までお休み。徳島で大イベントやる日なんだから、一週くらいずらせばいいのに、って何も知らない一観光客の自分は勝手に思う。まあ色々事情があるんだろう。
新町川ぞいは気持ちよかった。阿波製紙水際公園という川沿いの公園でベンチに座って本を読む。とても暖かくて過ごしやすい。近くの「あたりや」という店で買った焼きたての大判焼きを食べながら和む。朗らかな春の日だ。
ホテルはスタート会場の徳島県庁の真向かいにある「たいよう農園」というところ。農家の方が経営しているそうだ。他の地域では見たことない。四国で何店舗かあるようだ。中はごく一般的なビジネスホテルで過不足なく設備は揃ってる。1泊2食付で10,000円。とてもリーズナブルで便利。ここまで好条件だと「とくしまマラソン」に最適なホテルとして人気になりそうなもんだ。たしかにランナーも多い。その一方で関係なさそうな一般の人も結構見かけた。案外穴場のいい場所だった。
農家が経営していることもあり、食事がここの推しのひとつ。前日の夜も、当日の朝もここで食事する。特筆するほど美味しいわけでもない。ただこれもまた過不足なく揃っていて十分に満足できる。
食堂にはお遍路さんとおぼしき年配の男女3人組もいた。白装束を着たまま食事をしている。さすが四国だなと興味深く眺める。
そのうちのひとり、頭を丸めた70代くらいのおじさんのお皿を見ると、めちゃくちゃ揚げ物とスパゲッティを盛ってた。そんなに食うんだね。むしろ自分よりもたくさん食ってた。別に構わないんだろうけど、これから節制して行にのぞむイメージだったから、その俗っぽい食事の仕方がすごくミスマッチで印象深かった。
大会当日の朝はどこでも慌ただしくなるもの。ただ今回ばかりは違う。普段より遅いタイミングで食事できるし、食後は自室でゆっくり本読んで待つことができた。
スタート場所までが近い。本当に近い。部屋にいながら会場アナウンスが明瞭に聞こえる。ホテルを出て数秒後にはランナーの人ごみの中に入れたくらいだ。しかもスタートブロックが「SS」の最前列。他のランナーの喧騒に関わりなく一番前にすっと入れてもらう。招待ランナーのように優遇された動線だ。知り合いに話したら「キプチョゲみたいだね」って言われた。こんなにスムーズに臨めた大会はこれまでにない。次回、とくしまマラソンに出る時も絶対このホテルがいい。
さて、大会のこと。
コースはいたってシンプル。吉野川沿いを上流に向かって20km強行き、下流に向かって20km強戻るだけ。
地形を見た印象として、徳島は東西に延びる吉野川沿いに広がった平野の南北に街が栄えている。その河口部分に徳島市があり、そこが流通の起点になっている感じだ。今回の大会もそこを起点に行き来する。コース的には荒川沿いを往復する板橋シティマラソンに似ている。ただし、板橋はひとつの岸の往復であるのに対し、徳島は対岸に渡っての折り返しがある。吉野川は川幅が1km以上あって日本でニ番目の広さだそうだ。一番は荒川の上流にあるそうだけど、そこは河川敷部分が広いだけで、流れている川の広さはそこまででもない。吉野川は満々した流域が延々と広がっている。
序盤に吉野川大橋を渡る。1km以上の川幅を渡るとにかく長い橋。ここで吉野川のスケールをまず感じさせられる。
そこを過ぎるとひたすら堤防の上の車道を走る。その景色は富山マラソンの庄川とか、岡山マラソンの旭川沿いの雰囲気と似ている。川沿いのコースの特色として、日差しを遮るものがまったくないという宿命がある。今回のレースはとにかく暑さとの戦い。スタート前で15℃あり、最高気温は22℃あった。序盤からとにかく水分を多めに摂ることを意識して進んだ。
川沿いコースのもう一つの特色は吹きさらしの強い風。今日に関してはそれが吉となった。暑くなる身体を冷やしてくれる。特に良かったのが横からの風だったこと。普通上流から下流に向かっての風だから、往路、復路のどちらか一方でしか恩恵を受けられず、折り返すとまったく風を感じないなんてこともよくあるけど、今日はどちらの方向でも風を感じれた。ちょっとした気象条件で、まったく感じ方が変わってくる。
前半20km近辺まではとても順調に進む。いろんなことがコントロールできている感覚があった。
アンコントローラブルな出来事は、自分の無謀な試みから生まれた。シーズンの最後の挑戦として、新たなシューズを履いてみたことだ。
これまでずっとNike派だったけど、はじめてadidasのシューズを買った。「Adizero Adios Pro 4」だ。箱根駅伝の時から注目していて、先日の東京マラソンの時のExpoで初めて実際に触ってみた。「とても軽い」っていう印象で気に入った。このレースの3日前に水道橋の「SteP SPORTS」へ行き購入。サイズは25.5cmがよかったけど在庫がなく、25cmで試してみたら問題なさそうだったので、それに決めた。「いいタイミングで大会出るから」とぶっつけ本番で、フルマラソンに使ってみることにした。この判断が今日の後半の苦しみの要因となる。
西条大橋で折り返して、再び徳島方面へ戻っていく。このあたりから、なんだか親指の指先が痛い。着地するたびに少しずつ痛みが走る。我慢できる程度ではある。ただこの辺で25kmくらい。まだ道のりは長い。
その後は、暑さとか疲労とかは意識になく、ずっと痛みとの闘いだった。次第に痛みは増していくけど、小康状態の時もある。止まるほどの痛みを感じることはなかったから、なんとかペースも保って走り続けられた。あとで見たらシューズに血がにじむほど爪から出血していた。シューズ脱いで、足元見たとき、爪がはがれていないのを確認できた時はほっとした。ただ、ありえない色に変色していたけどね。まあ、無事に乗り切れたのが何よりだ。
後半は中高生のボランティアの子も多いし、演奏で応援してくれるブラスバンドもたくさん見かけた。どこへ行っても学生の子達の応援はうれしいもんだ。その土地をあげて盛り上げてくれている雰囲気を感じる。できるだけリアクションして感謝を示すようにした。拍手しながら目の前を通るとうなづいてくれる子もいる。そういうコミュニケーションは結構好きだ。あとは阿波踊りのチームも何組か見かけた。ご当地ならではの応援だ。そっちはあんまりちゃんと見られない。走りながら見るもんじゃないな。
全行程を通し、ずっと川沿いを走る感覚のコースだった。景色は大きく変わらないものの、惰性のまま距離が進めるのはかえってありがたい。心配していた暑さは、後半に進むにつれて増していたはず。でも足の痛みの方に気がいってたから、まったく気にならない。確実に影響は受けていたと思うけど、人間の「辛い」っていう意識は、より辛い方に集約されるようで、バテてる感覚はなかった。
ゴールは徳島にある陸上競技場。2:58:45のタイムだった。余裕持ってサブ3を記録できるって感覚だったけど、結構危ういところだった。それでも痛みを乗り越えて走りきったことと、今シーズンの主要大会を走り切ったことによる安堵感を感じられた。
これで5大会続けてサブ3を達成できた。3月だけで2回目。
今回は「20℃超えの暑さ」「爪からの出血」という厳しい条件の中だから達成感が強い。さらには数日前の「尿路結石による緊急搬送」という余計なアクシデントまで乗り越えられた。アクシデントは人を困らせるものだけど、その反面乗り越えたときの達成感を高めてくれるスパイスにもなる。終わった後はその時の辛さもなんのその。いいネタになったと思って辛い記憶は残らない。

ゴール後は徳島人が愛するソウルフード「金ちゃんラーメン」が提供される。「持ち帰り」と「その場で食事」が選べたから、「その場で食事」の方を選択。普通のカップラーメンだけど、塩分失っている分、塩味がめっちゃおいしく感じる。
そして、この大会で楽しみにしていたひとつ。フィニッシュ会場から藍場浜公園への 「ランナーズクルーズ」を堪能する。小型の船で徳島の市街地を運河のように抜けていく。その時ばかりは20℃超えの気温が心地よい。とてもよいそよ風とわずかな水しぶきを感じながら走ってくれるから、クールダウンにぴったりだ。これまでもいろんな大会に出ていろんな演出に出会ったけど、この演出は初めてだ。とてもユニークで、粋で、素晴らしい。このためだけにまた来てもいいくらいの気持ちにさせてくれた。
いろいろと想定外もあったけど、なんとかその日のうちに、無事東京まで帰ってこれた。今回はなにより「無事」ということが一番うれしい。この「無事」をこれからも積み重ねていきたいところだ。
5年越しの念願だった徳島は、アクシデントを乗り越えてなんとか制覇。残る都道府県はあと3つ。今シーズンの遠征はこれで終了だから、また秋から目標達成へ向け進んでいこう。でも、あせらず、無理せず、ぼちぼちと。これを肝に銘じてやっていこう。
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