top of page

240519 千葉

  • 執筆者の写真: 光太郎 笠原
    光太郎 笠原
  • 2024年6月8日
  • 読了時間: 9分

3月の鳥取マラソンを走ったあと、秋までは新たな県への遠征ランはおやすみ。


4月は大会に出ず、ひたすら日々のランに徹する。今年に入ってから、通勤の行き帰りをランにしている。このサイクルが気に入ってる。日々の目安としている20kmを走るためには2時間の余暇が必要になるんだけど、それを持つのは難しい。そんな中で通勤の時間をそれに充てられるところが何より効率的。行き帰りで約10kmずつ走る。いわゆる朝夕の二部練だ。冬場は走るとちょうど身体もあったまっていい塩梅になる。4月に入ると夏日もあって、汗がとまらない日も出てくる。さすがに汗だくのまま仕事はできないし、服の処置も難しいから、これ以上暑くなると続けられないとは思ってる。それでもなんとか今のところ続けている。夏どうするかは、また夏になったら考えよう。


4月20日には、CBランニング部の練習会をした。いつも通り荒川沿いを走る。

新メンバーとしてJPの梶原くんも参加してくれる。みんな本調子じゃなかったから「ジョグだけにしよう」なんて話してたのに、やっぱりそこはサブ3ランナーの集まり、我慢できずペースをあおる人が出てくる。しばらく走ったあとで、石田さんあたりがあおるかと思ったら、初参加の梶原くんが「もっとあげましょう!」って言ってきた。若いのに物怖じせず頼もしい。それに応じてみんなでペース上げる。一番遠慮ぎみに「足の調子がよくなくて…」なんて言ってた三村さんが、結局最後は一番飛ばして突っ走ってた。ああやって、闘争本能を掻き立てられるのは、やっぱり必要なこと。とてもいい刺激を受けた。


5月になるとフルの大会が一気に減る。とはいえ時間と元気はあるから出られる大会には出ておきたい。そこで選んだのが稲毛海浜公園で開催される「稲毛花のマラソン」。

比較的近場の大会だから、今回は珍しく応援に来てくれる人がいる。まずウチのしおりちゃんが来てくれることになってた。そして稲毛海岸にはまりえさんが住んでいる。「今度大会に出るんだ」と伝えると、「行きます!」と即答してくれた。しかも息子(2歳)くんも連れて来てくれる。シーズンの合間の中途半端な位置付けの大会だけど、これでモチベーションは整った。


当日の朝は自分一人が先に会場まで行く。東京湾の千葉側の海岸線は幕張のあたりで走ったことがある。フラットな地形。整備された街並みがとても走りやすい。稲毛のあたりは初めて来たけど印象は同じ。稲毛海浜公園は、海岸線ぞいに延々と広がる細長い公園。BBQ場もあれば、グランピングができるエリアもある。大会の日はキッチンカーも並んでいてにぎやかだ。地元の人たちの憩いの場っていう雰囲気。とてもいいところ。まりえさん一家もよく行くそうだ。


各地でマラソン大会を開催している団体が主催。とても熟れた運営をしている印象だ。一日で数種目を並行しておこなう。地元のファミリーが気軽な気持ちで参加する雰囲気で、短いところでは1.5kmとか2.5kmのセクションもあるし、ペアラン、ドッグランなんかもある。フルの参加者は67名。それでも多種目同時スタートなので、にぎわいはあった。

1周約3kmの周回コース。フルはここを14周する。林道が多く木陰沿いを走っていけて、とても気持ちいい。天候自体くもりで、日差しがなくいい気象条件。公園自体はかなり広い。ただ道幅はあんまりなく、しかも一般の来場者と共有の歩道だから、気をつけながら走る。180度のUターンが後半に2回あるところも少しストレスになる。それでもコースの最後は海岸沿いのストレートを駆け抜けられる。ここが一番よかったな。とにかくまあそんなコースをぐるぐると回っていく。


ハーフ・駅伝とスタートが重なるから、序盤はその上位ランナーがスタートダッシュをしていく。それを尻目にゆっくり走り始めた。他のフル出場者の様子が気になるところ。出場している種目を判別するにはゼッケンを見るしかない。ただゼッケンは1枚だけで、それを身体の前につけているから、後ろ姿からはわからない。状況判断はあきらめて、とにかく進むことに集中する。


2~3周目、ちょうどサブ3ペースくらいで走っているハーフの出場者がふたり並走しているところに追いついた。その後ろについてしばらく走ることにする。これがすごく助かった。ペース判断を委ねられる。進路変更が多い周回コースでペース把握するのが難しいから、そのコバンザメ走行中にリズムつかめた感じだった。そのふたりが5~6周目あたりで、さらにペースあげたから、無理についていくのはやめた。その判断が冷静にできたこともまたよかったかなって思う。


4:20ペースで走れば、1周を13分で走ることになる。それを目安にして中盤は走っていた。ハーフ(7周)の通過が91分台、ちょうどいい。ハーフを過ぎると、走っているランナーががくっと減る。人数比で言えばハーフ参加者がフルの倍以上いる。3kmの周回コースでフル走るのは少数派だ。競技に出ているというより、行(ぎょう)にのぞんでいるような感覚さえある。


最近「ウォークス 歩くことの精神史」(レベッカ・ソルニット著)という本を読んだ。

古今東西の「歩行」と「思考」との関わりについてまとめた壮大なスケールの作品。とても読みごたえがある。

その中で、イギリスの詩人ワーズワースについて記載されていた箇所があった。彼は同じ場所をぐるぐると歩き回ることを創作前の日課としていたようで、その歩行について「先に進むのではなく、身体をある種の夢のようなリズムへ順化するもの」としていた。彼の創作方法は「詩作を肉体の労働に変えること。」だったという。「鋤を引いて耕す農夫のように往復し、羊を探す羊飼いのように高台をさまよう。」ことによって感覚を研ぎ澄ませ、作品に投影していったようだ。自分を高めるためのシンプルな体への負荷。周回マラソンと通ずるものを感じる。ワーズワースさんのように美しい詩は生みだしていないけれど、走ることで生産的な活動にベクトルを向かわせているとは思っている。


同じ本の中にこんな文章もあって、心に残った。

「けれど、一日に20マイル、来る日も来る日も、何ヶ月も足を引き摺って歩いていると奇妙なことが実際に起こる。あとで振り返ってみて初めて理解できるようなこと、たとえば、自分が過去に経験したことや登場する人びとのすべてを、ありありと、生き生きと思い出すことがあった。話したことや聞いたことを子ども時代のことからすべて思い出して、そうした出来事をまるで他人事のように感情を切り離して振り返ることができた。わたしはずっと前に亡くなった人や忘れてしまった人をもう一度見つけて、彼らに出会っていた。……それをわたしは幸せに感じていた。そういうほかには言葉が見つからない。」(『トラックス』ロビン・デヴィットソン著)

こういうブレインストーミングのような副次的な作用もまた理解できるところ。この行(ぎょう)マラソンも、心の持ちようで決して退屈なサイクルとはならずに走っていける。


後半になっても一向に順位はわからないし、ペースが落ちているのかキープできているのかすらわからない。とにかく周回数を間違えないことだけは意識していた。後半に応援が到着してくれることになってたから、それを楽しみに周回を重ねる。ただ心配だったのが自分のペースが想定よりもちょっと早かったこと。だいたいのゴール予想タイムとして伝えていたのは、3.0〜3.5時間。その後半の方に近いと、到着前にゴールしちゃうかと思ってひやひやした。ただ、ペースをゆるめるわけにはいかない。間に合うはずと信じて走った。


最後の周回に入るところで「あ〜、いた!」っていうしおりちゃんの声が聞こえた。振り向いたところでちょうど会場に着いた応援の3人の姿を視界に捉えた。とっさに手を振って合図し次の周回へ入る。その後のラスト1周はとても気持ちよかった。もうすぐゴールで仲間が待っていると思うと元気が出る。実際ペースも上がっている。どれだけ経験重ねても、応援に勇気づけられてパワーが出るっていうのは初心者の頃と同じだな。そういえば初マラソンの時応援に来てくれたのもまりえさんだった。それが今や母親となり子どもを連れてきてくれて、さらにしおりちゃんも加わってくれていると思うと感慨深い。


最後までペース変わることなく走り終えられた。ちょうど別のセクションのスタート時間と重なったので、ゴール前は混雑してた。係りの人もそっちのスタート整理につきっきりだったから、それを脇目にひっそりとゴール。「これで周回あってるよな」っていう不安を持ちつつも、応援の3人が待つ場所まで進む。自分が特に高揚するところも疲弊するところも見せずにあっけらかんと現れたから、しおりちゃんからは「あれっ、マラソン走ってきたんだよね?」って声をかけられた。自尊心を満たしてくれるいいほめ言葉だ。


まずは本当に完走したかどうか心配だったから、取り急ぎ記録証の発行場所まで行く。労ってくれたしおりちゃんとまりえさん母子を置いて、先に記録証の発行所へ行って確認することに。そこで記録を出してもらうと「2位入賞だったので、のちほど表彰式にご参加ください」とのこと。


うれしい!うれしいけど、なんだかあっさり言われて、ぽかんとするようでもある。まあとりあえずその報告を3人のもとへ持っていこうと歩き出す。その時の感情と言ったら… 一言ではなかなか言い表せない。喜びもあり、誇らしさもあり、ちょっと気恥ずかしさもあり。まあこれまでに味わったことのない感情だった。

「表彰」というものに縁のない人生だった。いままでにもらった賞状といえば、卒業証書と永年勤続表彰くらい。成績優秀で表彰されたことはたぶんなかった。それを40歳過ぎで、生まれて初めて経験できるとは。努力の甲斐があったと思い、喜びをかみしめた。表彰台の上にのぼるのも初めての経験だ。できるだけ謙虚に振る舞い、上位入選した他の方には心からの拍手を送る。自分が賞状をもらった時はとにかくうれしかった。応援が来てくれること自体珍しいことなのに、そのタイミングで初めての上位入賞できるなんて!めぐりあわせのよさに感謝したい。



もうひとつうれしかったのは、長年愛用したシューズ「テンポネクスト」を履いていたこと。苦楽を共にした相棒だったけど、アッパーとソール部分が剥がれかけていてそろそろ限界に近い状態だった。今日で走り納めと決めて臨んだ大会。最終的にそれでいい結果に繋がったから感慨もひとしおだ。


終わったあとは、まりえさんのお家に夫婦でお邪魔してランチを食べる。近くのスーパーでピザやら春巻きやらを買ってきてくれていて、それを一緒に食べた。おいしい。そしてとてもリラックスして、ラン後の回復の時間を過ごせた。なんだかその時間も相まって千葉の稲毛という場所にすごくいいイメージを持つ一日になった。最後にまりえさんが「この大会に出るのを恒例にしてくださいよ」って言ってくれた。それもいいなと思う。「2位」ってところもまたいい。まだもうひとつ上を目指すいい目標になる。また必ず出たい大会だ。


これから秋まではレースの予定がない。本格的に暑い時期がやってくる。たぶん走行量は落ちるけど、タイムは落ちないように、上手に夏を越そう。そしてまたこの喜びが味わえるように走っていこう。



 
 
 

Comments


  • Instagram
  • YouTube

©2020

bottom of page