230618 島根
- 光太郎 笠原
- 2023年6月25日
- 読了時間: 8分
更新日:2024年6月14日
2022-2023シーズン最後の大会は「隠岐の島ウルトラマラソン」。
距離100km。「起伏の激しい全国屈指の難コース」とされる大変なレースだ。これまでに挑戦したことがないような過酷な条件。ラストを飾るにふさわしいけど、うまく走れるか、正直心配もある。
隠岐の島までが遠い。羽田から出雲空港へ行き、その後バスで境港へ移動。高速船で1時間半かけてようやく島に辿り着く。片道で都合6時間強。二泊三日だけど、初日と最終日は移動がほとんど。そして中日が一日かけてレース。スケジュールとしてもハードだ。
ただ、島は着いた途端に愛着を持てるような温かみのある場所だった。漁師町の雰囲気が漂っていて、みんな明るい。そして、のんびりした空気感がある。なかなかユニークな愛嬌のある街だった。
「アイランドしまじ」というホテルに宿泊。過不足なく設備は整っている。一泊二食付きで、ご飯も美味しい。滞在中本当にリラックスして過ごせた。感謝だ。
レース当日の話。
まず珍しく寝坊スタートだった。3時に起きるつもりが40分出遅れ。ホテルの朝食は食べられず。前日買っといたチーズ蒸しパンとあんパンを食べつつ、出発の準備する羽目になった。
ちょっと焦ったけど大丈夫。ホテルからスタート会場まで歩いて行ける距離だったから、結果的には余裕もって到着。むしろよく寝られたからよかったかも。
西郷港という港から朝5時にスタート。東京より日の出は遅いから、スタート時間にようやく明るくなるくらい。気温は18℃。100kmの部の参加者は500人弱。バックパック背負っている人は少なく軽装の人が多い。自分もペットボトルホルダーのベルトだけ装備。アイテムはスマホ、モバイルバッテリー、スポドリだけで、補給食はなし。時計もつけなかった。

朝の時間は快適なコンディションだった。くもっていて日差しもない。海沿いの道をゆっくり走る。
10km過ぎから大きいアップダウンがはじまる。まずは100m級の峠。結構傾斜もキツい。もちろんまだ余裕もって走れる。とにかく景色がいい。高台から海の方を臨むと岩礁が見える。ゴツゴツした迫力のある巨岩が連なっている。隣で走っていたランナーから「景色サイコーっすね」と声をかけられた。
大久地区へ行くと一層景色に目がいく。黒島という岩の島が見える。東尋坊と同じような柱状節理の岩。ダイナミックだ。それなりにキツいけど序盤は無難に進んでいけた。

30kmすぎに給食レストがあって、サザエののり巻きとめかぶの味噌汁をいただく。その後にコース最大の峠を越す。徐々に晴れてきて、日差しが強くなり、気温が上がりだしたのがこのあたり。この上りはダラダラと5km以上にわたって続く。途中ちょっとした下りもあるから、まだ耐えられる。
37~38km、坂のピークのところでランナーとすれ違う。
ウルトラマラソンの中盤以降はすれ違う時に声をかけるのが自然だ。速見さんという小柄な男性で、メガネをかけた愛嬌のある方。「坂あと少し頑張りましょう」と言うと「いやあ、軽やかな走りやなあ」と返してくれた。その後の下りで今度は追いつかれて、ここでも会話を交わす。そこで初めて知ったけど、この方は14年連続での完走を目指すレジェンドランナーの方。「今日初めて来ました」と伝えると、この先のコースのことを丁寧に教えてくれた。ありがたかったし、いい交流ができた。
40km過ぎるといよいよ日差しが強くなる。かげる時間がなく、ずっと日にさらされる。今日一貫して言えることだけど、「暑くてツラい」っていう感覚がそれほどなかった。体温も上がりすぎず、汗のかき方も尋常の範囲内だ。だいぶ暑さに対する耐性ができた感触がある。
50km手前、生涯学習センターという施設内にレストステーションがある。ここで一休み。トイレ行ったり、水分補給したり。テーブルとイスがあり、補給食も食べられる。そこまでお腹減っていなかったけど、カレーライスとそうめんをいただいた。あとで考えると、ここでちゃんと食べておいたことは良かった。後半は胃の調子がイマイチで、食欲がなくなったから。元気なうちにご飯は食べておくものだ。
50kmの中間点を過ぎ、川沿いの道を進む。コース全体の中で、珍しくなだらかな道が続く。再び速見さんとすれ違ったんで、会話を交わした。「いやあ、まだまだ軽やかやな~」と言われて、うれしくなる。坂の下りが得意な人だから、「またこの先の坂の下りで、抜かしてください」とエールを送った。

60kmあたりで再び海の近くに出る。エメラルドグリーンのキレイな色だ。ここからがコース最大の難所。15kmくらいの間に100~150m級の山を3回越える、文字通りの山場だ。しかも結構急な傾斜。
一つ目からキツい。覚悟していたとはいえやっぱりキツい。前後のランナーも少なくなり、孤独に走る。二つ目が一番急でつらい坂。歩いちゃおうかとも思うけど、歩いてよちよち上るのも嫌だから、やっぱり走る。幸いまだ足の疲労はそこまででもない。日差しがますます強くなる中、救いだったのはトンネル道。日差しが避けられるし、坂の傾斜も感じにくい。今日のレースでだいぶトンネルが好きになった。
二つ目の坂を過ぎると、ちょうど全コースの2/3を過ぎる。坂を下ったところで油井という群落のエイドに辿り着く。ボランティアの人と声を交わす。「初めてにしては、随分余裕あるねえ。みんなここに来る頃にはヘトヘトだよ」と言ってくれる。

この大会の特長。
エイドでも、それ以外でも、地元の方々がランナーの名簿を持っていて、名前を呼んで応援してくれる。それがすごくうれしい。「笠原さん!」とか「光太郎さん!」とか呼んでくれるから、こっちも手を挙げて応援に応えたくなる。中には「光ちゃん!」なんて呼んでくれる人までいる。東京から来たってこともわかってるから、「わざわざありがとう」とか「また来年も来てな」とか、そんな声ももらう。温かみのある応援だ。島をあげて楽しんでるし、盛り上げてくれていることがよく伝わってくる。
そんな応援にも励まされ、70km過ぎからの三つ目の峠に挑む。ここもかなりキツいけど、まだ体力にはおつり残ってて、なんとか乗り越えられる。
都万(つま)地区に入り、給食のエイドで冷たいぜんざいと冷奴をいただく。弱った胃には優しい味。うれしかった。ただこの後、食欲減退で固形物は食べたくなくなる。エイドに塩があるから、それを匙ですくって水で流し込むような補給をする。あとは塩分タブレット。普段はまったく欲しないけど、今日だけはこれがありがたい。あれを何錠接種したことか。これもまた今日の状況下だけの欲求だろう。

後半のエイドでは、このレースの名物にもなっている「かけ水」に救われた。90ℓサイズのでっかいポリバケツ一杯に入った氷水を、ひしゃくですくって体にかけてくれる。おじぎの姿勢をとって「首筋にかけてください」とお願いする。体に水がかかったときの快感は他にかえがたいほどだ。陽気なおじさんが「これこそ力水よ~、いやあいいなあ。」なんて言葉をかける。生き返る感じだ。これをエイドに寄る度にほぼ毎回お願いしてた。
80km過ぎからは平坦な海沿いの道を走る。日差し強いし、気温高い。山の峠越えよりもこの日差しの方が体にはこたえたかも。
その後、50kmの部に出場していた川内優輝選手に抜かされた。彼に抜かれる栄誉を味わえたのは良かった。
85km過ぎ、坂の途中にあるエイド。
100mくらい手前まで女の子が迎えに下りてきてくれたから、エイドまで一緒に走った。
「どこから来たんですか」
「東京からだよ」
「へえ、そんなに遠くから」
「地元の子?」
「そうです。高校一年生です」
「隠岐の島、いいところだね」
「そうなんですよ!」
その時の女の子のうれしそうな顔が印象的だ。「一緒に走る」というエイドでのふれあいも初めての経験だ。
90kmを過ぎてもまだアップダウンは続く。最後にもうひとつ100m級の峠を越す。「もういいよ」って気持ちでいっぱいだ。気温はこのあたりで29.7℃に達する。本当に最後まで厳しいレースだ。でも自分でも驚くくらい脚は残ってる。からっけつで走れないなんてことはなく、ちゃんと走って進んでいける。熱中症の予兆もないし、足の不調もない。
真っ赤な色が特徴的な西郷大橋を渡ると、ゴールのある西郷地区に入っていく。ここからはウイニングロードだ。
沿道の応援も多い。高校生くらいのブラスバンドが生演奏してくれていたから拳をあげて合図した。演奏中にも関わらず、手を振って返してくれる子もいる。気持ちが昂る。
最後は虹見坂を上るとゴール地点だ。あおるように盛り上げてくれる女性MCの方の言葉に鼓舞されて、最後まで走りぬく。
10時間19分59秒でフィニッシュ。ゴールテープを切った時は心底、感動したし、達成感を味わえた。タイムの目標は特になかった。それよりも最後までしっかり走りきれたことがうれしいこと。きっちり100km、歩くことなく走り通せた。

(ゴールシーンの動画です↓)
https://youtube.com/clip/Ugkxa8xkygHsvgFXc8twPfkUQ7laHBHYhjzi
まず、真っ先に速見さんを見つけたから、労いの言葉を交わす。自分が気付かぬうちに抜かれていたようで、全体の中でもかなり上位でゴールしていた。自分が2回目の100kmマラソンだと伝えると「それであの走りはすごいなあ」と、ここでもお褒めの言葉をもらえた。底力と謙遜、尊敬すべき人だ。「一緒に走れて光栄でした!」と返しておいた。このやりとりできたことが何よりうれしい。
ゴールの後、頭の中で流れた音楽が、The Beatles「The Long And Winding Road」。好きな曲ではあるけれど、特に思い入れがある曲ではない。たぶんタイトルからの連想で思い浮かんだのかな。
The long and winding road
That leads to your door
Will never disappear
長く曲がりくねった道
君の扉に続いている
決して消えることはない
あの優しいメロディが、感動的な気持ちを助長させてくれる。
「うん、よく頑張ったな」と。
距離といい、暑さといい、高低差といい、間違いなくいままでのキャリア最難関のレースだった。このレースを大過なく乗り切れたことが、いろんな場面で財産になる。結構しんどい状況になったとしても、「あの隠岐の島のウルトラマラソンに比べれば」と考えれば、たいていのことは些細なことに感じるだろう。そういう自信が得られたことが最大の収穫。自分のこれからの生活の財産になる。

2022-2023シーズンのマラソン大会はすべて終了。フルの自己ベストを何度も更新しできたし、ウルトラでも満足いく結果が出せた。自分の環境の変化もあり、とても印象深いシーズンになったから、これまでのベストシーズンだったとも言えるだろう。
来シーズンの目標は、今年を超えるベストシーズンにすること。ハードルは高いけど、挑戦しがいのある目標だ。成し遂げていきたい。
(大会の様子をまとめた動画です↓)
https://youtu.be/ACBGFbwcVD4
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