220515 新潟
- 光太郎 笠原
- 2022年5月22日
- 読了時間: 8分
3月にウルトラマラソンを走りきった。
その喜びはとても大きかった。達成感は相当なものだったし、とても満足した。
4月にケガをした。左ヒザの外側の痛み(ランナーズニー)と、右足の付け根の痛み(グロインペイン)だ。
走れないほどのケガは久しぶり。10日間くらいはまったく走れず、静かに時を過ごした。
その不満感は相当なものだったし、とても失望していた。
そんな時期にダン・アリエリーの「不合理だからすべてがうまくいく」を読んだ。行動経済学についての本。その中で紹介されていた「快楽順応」という項にすごく勇気づけられた。
「人生を変えるほどの大きなできごとにも、いつか順応する。よいことが起きても思ったほど幸せにはならないし、悪いことが起きてもそれほど不幸にはならない。」という考え方。怪我でランニングができず「不幸と悲しみのどん底にいる自分にはわかっていないことがある。それは自分がとてつもなく順応性が高いということだ。」
そんな訳で、ランニング人生は続いていくんで、次の大会だ。
5月の初めにようやく少しずつランニングを再開。GWは山中湖とか、小田原で走ってた。
まだ治りきってはいなかったけど、ケガの前からエントリーしていた大会に参加。
新潟県の「柏崎潮風マラソン」だ。
新幹線で行けば、新潟は近いところだ。それでも当日入りは難しかったんで、前泊にした。
長岡で乗り換えるんで、そこで少しだけ観光していった。訪れたのは「河井継之助記念館」。

北越戊辰戦争で左ヒザを負傷した継之助が、難路で有名な八十里越の山道を越すときに詠んだ自嘲の句があった。
「八十里 腰抜け武士の 越す峠」
左ヒザを負傷している、いまの自分にはとても響く句だ。
絶望的な境地で、諧謔的で巧みな言葉を残した継之助さん。胸中を察するに余りある。
自分は、明日このヒザの状態で越後の山を越えられるのか。
たとえ思い通りにならなかったとしても、せめて継之助のようにユーモアの感覚は残しておきたい。
柏崎駅前の「ホテル ニューグリーン柏崎」ていうところに泊まる。お菓子メーカーのブルボンの本社のすぐ隣だった。
そこから歩いて数メートルのところにある「食事処おおはし」で前日の夕飯を食べた。
とても魚のおいしいお店。タイの刺身と、ニシンの焼き物を出してくれた。ニシンは特においしかったな。身がふっくらしてて、塩加減も焼き加減もちょうど良かった。たぶん自分の人生の中のベストニシンだろう。
レース当日の朝食もよかった。
ホテルのレストランでビュッフェ形式で出してくれた。特別なものはない。サラダ、スクランブルエッグ、コロッケ、焼鮭、シュウマイ。ただバカに白米がおいしい(気がする)。米どころっていう先入観もあるんだろうけど、そう感じた。ふっくらしてて、甘みがあるご飯だ。あんまり食べ過ぎは良くないと思いつつも2杯おかわりして、充填完了だ。
さて懸念のヒザの痛みについて。
ここ数日はランを控えて今日に臨んだ。前日の夜、柏崎の駅の周りを散歩。試しに少しだけ走ってみるけど、その少しだけでもイタみがある。これでフルは難しいかなと思わずにはいられない。今日の最大の武器は、魔法の薬「イブ」。自分は体質的に鎮痛剤がすごくよく効く。普段は1錠飲めば、充分だけど、今日は3錠用意している。朝食後に1つ、レース直前に1つ飲んだ。あとはレース中のどこかで飲もう。
ホテルから歩いて10分くらいのところに大会会場の「みなとまち海浜公園」がある。文字通り海に面した公園。日本海見るのは久しぶりだ。参加者は1,000人弱。中規模の大会ってところだろう。天気曇り、気温15℃前後。気候的なコンディションは最高、あとは自分のコンディションだけだ。

ウェーブスタートの先発組だったけど、当然全力で走れないだろうからと、組の最後尾につけて、号砲を聞く。
スタートして一歩目を踏み出す。やっぱりイタい。先行きが思いっきり不安になる。100mほど進んで、ようやく落ち着く。これならしばらくは走れそう。2~3kmはイタみに付き合いながら走る感じで、思い通りの走りはできない。
でも、慣れる。
そして徐々に鎮痛剤が聞きはじめて、ラクになってくる。
はじまっちゃえば、なるようになれとハラもくくれる。今日やれる精一杯を出していけばいい。
はじめは海岸沿いの道を走る。おだやかな風が吹く。
4km過ぎ。鯨波の「クジラの地下道」っていうのを、コース上のひとつの名物にしている。大きめの交差点の迂回用の地下道で、入り口がクジラの形を模していること以外には、なんてことはない。ただ、コースの起伏を考える上では、割とキーになるポイント。往路はここから上りがはじまり、その後4kmくらいだらだらと続く。
標高で言えば100mくらいあがるけど、傾斜がゆるいんで、そこまでこたえない。
逆に大変なのはそこからの1km。通称「閻魔坂」を一気に下る。今のヒザにとっては、下り坂がもっともこたえる。慎重に走っていく。
周りのランナーはそこで自然とペース上がるんで、次々と抜かれていく。それを横目に我慢してゆっくり走る。
10km過ぎると田園風景広がるゾーンに出る。一気に平坦な道だ。ちょうど苗を植えたてくらいの時期。背の低い稲が視界いっぱいに見える。米どころの国に来たことを実感できるところだ。地元の方々も田んぼの畝道からたくさん声援を送ってくれる。おじいちゃん、おばあちゃんが多い。この大会での応援を楽しみにしてくれてる雰囲気を感じる。うれしいもんだ。
15kmくらいで、鎮痛剤が一番効いていたんだろう。イタみをまったく感じなくなる。そこまで5分40~50ペースくらいで走ってて、そのままペース変えず行くって選択肢が一番無難に思えたけど、せっかく遠征して参加してるんだし、ちょっと頑張ってみようかとペースを上げてみることにした。5分台前半。ここ最近にしては、かなり突っ込んだペースだ。これでフル走ったらどうなるか見てみよう、ってな心持ちだ。
16kmくらいから再びアップダウンが入ってくる。相変わらず上りは苦にならない。山道終わると農道ゾーン。どうやらこういう風景の繰り返しだってことがわかる。今日のレースは前後半がまったく同じコースの往復。ちょうど中間地点で折り返して、同じ道を戻ってくる。シンプルで明快だ。
イタみはないし、コースもわかった。これなら乗り切れそうと自信がわく。念のため、中間あたりで3錠目のイブも飲んどいた。あと半分。
後半に入ると、周りではペースが落ちていく人が出てくる。それをどんどん追い抜いていける。特に上り坂は顕著だ。当然行きで上りだったところは下りに、下りだったところは上りになる。コースがわかってるから、気分的に余裕ある。それでも他のランナーの中にはばったり止まっちゃう人もいる。それを抜いていくのは楽しい。ヒザのイタみさえ出なければ、「フルではバテない」っていう確信あるんで、自信を持って走れる。冬場の超ロングラン練習と100kmマラソンの恩恵だ。1ヶ月まともに走れなくても、その貯金はまだ残ってたようだ。ありがたい。
後半の山場は、33km手前からの「閻魔坂」の一気の上り。
前半では1kmで100m下ったから、後半は1kmで100m上る。ここが爽快だった。ほとんどの人はバテてペースを落とすか、歩いている。それを尻目にペース落とさず走るんで、面白いように抜いていける。数えてはいないけど、これだけの距離の中で抜いた人数としては、過去最高だと思う。もちろん自分にとってもラクな坂ではなかったけど、その爽快感の中で走っていると楽しさしか感じなかった。
他のランナーにとって、その坂でのダメージはその後も続いていたようで、先行しているランナーはだいたい足が重い。下りに入っても、追い抜きは続けられた。
下りパートも終わり、2回目の「クジラの地下道」に達する。これで残り4km。足はまだ大丈夫なんで、ゴールまで持つだろうという確信が持てる。
あとはなだらかな海岸沿いの道。昼になっても気温は上がってなくて、気持ちよく走り続けられる。
ゴールが近づくと応援の方の声も大きくなってくる。こっちもできるだけ手をあげて応えて、テンションを上げて走る。最後までペースを落とすことなく走り通せた。

記録は3時間50分台。サブ4だったんで、なんとか矜持を保てた。ここ最近は6分ペースくらいが精一杯で、サブ4は難しいかと思ってたんで、この結果はとてもうれしい。
今日強く思ったこと。それまでの実績とか経験とか度外視で、いまの状態でのベストを出せれば、それで大きな満足感が得られる。なんてったって見知らぬ土地でフルマラソンを走るってのはカンタンなことではないんだから。大会に参加していいなって思うのはそこかな。
走り終えてしばらくすると、さすがにヒザがイタくなりだした。でもフル走ったら、健康な時でもこのくらいのイタみはある。健全なもんだ。歩く分には全く問題ない。なんとか自力で駅方面まで戻ってこれた。
柏崎の駅前の居酒屋でランチやってたんで、そこで「生姜焼き定食」食べてきた。タイ人のお母さんがひとりでやってて、他にお客さんはいなかった。「ちょっと曇ってるね」なんて声はかけてくれるけど、マラソンのことには触れない。多分走り終えてきた人とは気づいていないようだ。気遣われるよりも気楽でいい。ひとりで参加したマラソンの後、静かにご飯食べられるのは幸せだ。気持ちも体もクールダウンできる。ご飯もおいしかった。柏崎は、すべての食事が良かったな。
走り終えて数日経っても、ヒザのいたみがひどくなってるようなことはない。遅々としてはいるものの着実に回復はしているようだ。とりあえず安心。6月のはじめに次の大会があるから、その時には今回よりもいい状態で臨めそうだ。しばらくは無理せず、ぼちぼちとやっていこう。そしてまたその時のベストを尽くそう。

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