210905-1010 東京
- 光太郎 笠原
- 2021年10月23日
- 読了時間: 7分

夏の間のランニングは、黙々と東京の道を走った。
コロナの感染者がこれまでにないほど増えて、とてもじゃないけど遠征なんて行けない状況だった。毎日、全身汗まみれになりながら、20km走ってた。東京の夏は暑い。年々ヒドくなってる。それでもえらいもんで、それに適応できるような感覚もある。この夏でずいぶん暑さには強くなれたような気がする。
そんな日々の中で大きな刺激になったのは、東京オリンピックとパラリンピックだ。
自然とマラソン競技に注目がいく。オリンピックの方は、東京の暑さが考慮されて、札幌での実施。女子はケニアのジェプチルチル選手、男子もケニアのキプチョゲ選手が優勝した。印象的だったのは、ケニアの女子選手たちのチームワークだ。3選手が出ていて、みんな実力者揃い。序盤から先頭集団で走る。給水ポイントがあると、ドリンクも氷も3人でシェアする。それが当たり前のように行われていることに驚く。自分に顧みて考える。レース中に他の人に気配りできる余裕があるだろうか。いや、ない。自分のことで精一杯だ。それを最高峰の名誉を争う真剣勝負で、やってのける。1回や2回じゃない。ずっとだ。特にこの優勝したジェプチルチルさんが一番「世話好き」に見える。みんなのお姉さん、いやお母さんみたいだ。「あんた水飲んだの?後半しんどいんだから、飲んどきなさい。」みたいな仕草に見える。ホントにいい人なんだろうな。それでいて強い。終盤までケニアの2選手でトップ争いをしていて、このまま最後まで並走するんじゃないかってくらいに見えたけど、さすがに最後はスパートをかけて勝負をつける。あれだけ人に気遣いをしつつ、この強さ。見事だ。
オリンピックのマラソンで十分感動してたけど、もっと大きな感動があったのがパラリンピックのマラソンだ。
開催が9月5日。暑さも落ち着いた東京で実施。いつも走っている東京の街を、世界中のパラアスリートたちが走り抜ける。そうなると自分にとっては、必見のレースだ。
当日の朝、コースの一部を走ってみることにする。車両はコースの周縁をふくめ、通行止めになっているけど、歩道は入っていける。蔵前橋の方から江戸通りに入り、浅草の吾妻橋のとこまで走る。警備の人がところどころにいて、それよりたくさんのボランティアの人がいる。朝6時くらいってこともあり、見物している人はほとんどいない。車道は完全にレースのためにしつらえられている。給水所が見えて、テーブルと各国の旗が見えた。それを見たことが、今回のオリ・パラ期間の中で、一番身近に大会の空気を感じた瞬間だったかな。「みんな、がんばれ」っていう念を残して、家へ戻り、レースはTVで見た。

レースで一番印象的だったのは、視覚障害女子の部で金メダルを取った、日本の道下美里選手の走りだ。
もともとこの人のことを知ったのは、チャイルドブックの中で取り上げられていたから。サンチャイルドのパラリンピック特集で、うちの取材を受けてくれた選手だ。爽やかな笑顔で、人の良さが伝わってくる。実際の走りは今回初めて見た。小さい身体ながらも、確たる芯の強さを感じさせる走りをする。この日のレースは、3時間強で走り切った。暑さで後半バテる選手が多い中、最後までしっかり走りきっての見事な優勝だった。自分より少し上の年齢で、自分より少し早いタイムで走る。「自分も頑張らなくては」って気持ちと、「負けてられるか」って気持ちを起こさせてくれた。翌日には、社内で勝手に「おめでとう!道下選手」ってお祝いの掲示を作った。みんなに無理やりにでも押しつけたい感動だった。

どのカテゴリーでも、勝負どころになっていたのは40km付近の靖国通りから外苑西通りに入る前、富久町西の坂だ。画面越しで見ていても大変そうな勾配。車いすの選手なんかは、そこを腕の力だけで登っていく。男子クラスで優勝したフグ選手は、圧倒的な力量さを見せて2位の選手を引き離してった。そのスパートぶりが見事だった。後日、自分もその坂を走ってみた。そこをなぞってみると、すごく感慨がある。ここであの激戦が行われていたんだ、と。その後、国立競技場に向かう最後の直線コースになるんだけど、そこはフグさんにとっては、気持ちいいウイニングロードだったんだなって想像できる。東京でこういう大会が行われると、それを気軽に擬似体験できるんでうれしい。またその感動を味わいたくて、ここを走るだろう。
たくさんのインスパイアをもらったパラマラソンだった。
そんな夏を越し、9月末で緊急事態宣言がようやくあけた。10月10日にやっと実施できたイベントが、CBランニング部2回目の練習会だ。
前回は、自分、村田、石田の3名だったけど、今回は5名。JPの三村さんと、東海ミシンの塚越さんが加わった。
三村さんは、元トライアスロン選手で、純粋なランナーとしてもサブ3を達成している、本格的なアスリート。塚越さんは石田さんの後輩。先輩に触発されて1年半くらい前にランニングをはじめ、みるみるうちに没頭、今では毎月フルマラソンを走るというハマりぶり。加わったメンバーも含めて、みんなそこまでレベルの差がないんで、ペースを合わせて走りやすいっていうメンツだった。
戸田橋と笹目橋の間を走った。石田さんのホームグラウンドとも言えるコース。ちょうど片道3kmで折り返す。途中に陸上競技場なんかもあって、走っている人がすごく多い。特に目につくのは学生たち。高校生もいれば、大学生もいる。彼らの走り方を見ていると自分たちとあきらかに違っていて驚かされる。まず足の蹴り上げ方が圧倒的に高い。そして軽やかだ。体の使い方も違う。よく言えば体全体を使ったエネルギッシュな動かし方だけど、フルマラソンランナーから見ると、無駄なエネルギーを使いすぎだ。42.195kmは続かないであろうフォーム。爽やかでケレン味の無い動きではあるけれど、自分が好きなのは、無駄のないコンパクトなフォームだ。
うちで言えば、石田さんがまさにそういう走り方をする。三村さんの走りも印象的だった。さすがにサマになっていてかっこいい。走ってる時の格好が一番スタイリッシュなのは、間違いなく石田さんだけど、パワフルなのは三村さんだろう。腕を高い位置に保って、巻き込むように振る。背筋は伸びていて、崩れない。真似しようと思っても真似できない走り方だ。
今日走っている5人とも総じて長い距離を走るのに適したフォームに見える。自分たちフルのランナーは、知らず知らずのうちに、最小限の動きで、最大限の持続可能なエネルギー消費を続けているんだなってことがわかる。成熟するにつれ、サステナブルな方向性に進化していく。自分たちの身体のことだけど、社会の縮図を見てるみたいだ。
あとは学生たちにはっぱをかける、顧問教師の声も聞こえてくる。自転車でランナーのあとをつけて、腕の振り方やら、足の使い方に叱咤激励を送る。その光景見てると、部活でランニングしなくてよかったなって思う。「うぜえ」って感じだ。強制されて、走ることほどツラいことはない。好きな時に、好きなスピードで走ってこそ楽しめるスポーツだ。自分の中では、走ることの楽しさしか見出せてないけど、彼らはツラさもたくさん内包しているんだろう。大人になってから、誰に薦められるわけでもなく、強いられるわけでもなく、走るってのが、一番幸せなランニング人生なのかなって思う。
練習内容はビルドアップ走にした。はじめは1km5:00ペースでスタート。5kmごとに徐々にペースを上げていく。自分が普段走っているのは、6:00くらいではじめて、5:30くらいまで上げるジョグと、週一で4分台まで上げて走るスピード走。今日も似た感じではあったから、リラックスして走れる。15kmすぎて4:30くらいまで上がると、「あれっ、こんな早いんだっけ。」って感覚は持ったけど、なんとかついていく。最後の折り返しから、残り3kmはフリーで走ることにしていて、石田さん、三村さんが、一気にギアをあげる。あとで聞いたら3:40まで上げていたそうだ。さすがにそこには着いていかない。それまでのペースを守って、走り切る。それでも十分負荷はかけられた感覚がある。はじめのウォームアップとあわせて計20km走った。普段と変わらない距離。それでも普段とは全く違う刺激を受けられた。
近くの施設でシャワー浴びて、さっぱり。
ランチは高島平の「剣閣」っていう中華料理の店にした。四川料理の美味しいお店。地元の人気店みたいで、かなりにぎわってた。スポーツした後にみんなで食べるご飯は格別。コロナで、友達と食べるランチ自体が久しぶりだったから、余計楽しく感じた。この後の大会の出場予定なんかを話した。みんな目指す目標が似ている。サブ3がらみだ。基本的には個人的な目標だから、人と比べてどうこうってことはないけど、やっぱり気にはなる。負けていられない。自分含めみんなで達成できるといい。本格的な大会シーズンを前に、そんな決心も固められて、意義ある一日になった。
いざ勝負の秋だ。
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