210626 岩手
- 光太郎 笠原
- 2021年7月3日
- 読了時間: 8分

何度目かの緊急事態宣言が終わって、ようやく遠征ができた。
岩手県北上市で開催される「第1回東北希望の襷マラソン北上大会」。東日本大震災から10年の節目にはじまる復興マラソンイベント。東北6県で順次開催予定だそうで、この北上大会からスタートのようだ。岩手県で走るのは初めてだ。東北地方は上野からの便がいいので、移動には新幹線を使う。始発で行けば、午前中の大会でも当日発で間に合う。岩手もなんとか当日圏内だ。
とは言え、かなりタイトなスケジュール。上野始発の盛岡行きで、北上に着くのは8:54。駅から車で10分程度のところにある、北上総合運動公園内の競技場が会場。そこへタクシーで向かう。スタートは9:35だ。ギリギリじゃん。
間に合うかどうかが、今日一番の不安材料。ひとつでもひっかかるとアウトかも。ただ結果的には、すごく順調に会場までたどり着けた。
新幹線の始発は、普段より余裕ある時間に起きて身支度できる。車内でランニングウェアに着替え、北上駅についたら、タクシー乗り場へまっしぐら。すでにそこから大会始まってるくらいの感覚だ。タクシー乗り場がらがらですんなり乗車できる。行き先告げると「あぁ、ハーフマラソンの人ですね。」と言ってくれる。うん、話が早い。「あと30分後にスタートなんですよ」って伝えると、「そりゃあ、ご苦労様だね~」と言いつつ、車を急がせてくれる。気さくな運転手さんで、気持ちが和んだ。会場にはスタートの20分前に到着。これで一安心。
そして、そんだけ長い距離の移動の後、すぐにハーフマラソン走る。
気持ちの切り替えとか、走る準備とか、そういうのはまったく心配がない。なんせそれ以上のことを毎日こなしてる。
5月から毎日20km以上の距離を基本にして走ってる。それも朝起きて10分後の朝3:30スタート。そのまま一気に20km走る。だいたい2時間弱。「そういう日がある」とかじゃなくて、「毎日そういう日」。日々そのリズムでハーフマラソン走ってるんだから、今日のスケジュールなんてちょろいもんだ。
ここ、2ヶ月の日々のランニングの話を書こう。
5月は前半の5連休で毎日25km走った。そのスタートダッシュが効いて、距離をどんどん積み重ねられた。
600kmを目標にしてたけど、20日くらいのところで、残りの日にちと距離を計算。そう、計算しちゃったのがよくなかった。
「一日平均22kmくらい走れば700kmになる」ってことがわかっちゃった。「さすがにそんな距離まで目指さないよ。」と思いつつも「目指さないけど、今日は余裕あるから22km走ってみようか」なんてことに思いが変わり、つい距離を伸ばしちゃう。
体と心の動きが、ホントに自分でも読めない。それが楽しかったりする。
朝起きると、結構体が強張ってる。「かったり~な。」って思いつつ、走る準備。その時点では「ちょっとセーブして走ろう」っていう気持ちだ。
外に出て一歩目を踏み出すと「思ったより重くないな」っていう気持ちに変わる。それでも「今日はゆっくりでいいや」っていうテンションのまま。
それが5kmくらい続き、その辺からようやく体がほぐれてくる。10kmを過ぎると、完全に体が動き出す。「今日もなんとか20kmはいけるな」っていう気持ちに変わる。15kmを過ぎると「いや、むしろ今日は調子いいかも」に変わって、「せっかくなら20km以上走って、明日以降の貯金作っとくか」となる。それがほぼ毎日だ。
こうやって湧いてくる自分の感情に左右されて、行動をころころ変えていくのが、なんだか他人に動かされているようで、不思議な感覚を持つ。その結果、毎日走行距離が積み重なるっていう循環になる。悪くない循環だ。結局706km走った。
6月に入り、意識的に距離をセーブ。それでも一日20kmはキープした。そんな訳で今月も600kmペースで走ってる。昨日も一昨日も走った。今日北上でハーフ走って、おそらくまた明日からも走る。いまんところ体の不調はなく、元気に過ごせてるのが何よりだ。
レース当日の話に戻る。
スタート前に、この地方伝統の「鬼剣舞」っていう舞を見せてもらった。文字通り、鬼の格好をして、剣を持って舞を踊る。暑い中、大変そうだ。こういう見世物が気持ちを盛り上げてくれる。思えば、こういうイベントらしい大会って久々だ。ここんところ、小規模で手作り感のある大会にしか出てなかった。コロナ禍でも、なんとかマラソンに出ようっていう必死感のあるやつだ。それに比べると、今日は余裕がある。コスプレで走る人とかも久しぶりに見たな。いつも思うけど、あのコスプレの人たちは、余裕持って走ってこそ、やってる意義が感じられる。レースの後半になって、死に物狂いで、ぜえぜえ言いながら走ってるの見かけると「そんな格好、やめればいいのに」って。
今日は4kmの周回コース。これを5周して、最後に迂回コースを1周する。会場の北上総合運動公園はかなり広い敷地だ。陸上競技場、サッカー場、ラグビー場なんかがある。園内とその近辺をぐるっと回る。園内に池があって、その脇が林道になっている。序盤はここを走る。コースの中では一番好きなところだ。日差しも遮られて涼しいし、吹く風が気持ちいい。
序盤を過ぎると公園の外周に出る。微妙なアップダウンもあって、そこまで好きじゃない。中盤は右手に見渡す限りの田園風景が広がる。こういう風景が自分の中での東北地方の平坦な土地の典型的なイメージ。稲も伸び始めていて、緑がきれいだ。後半は再び競技場へ向かう。ここにもアップダウンがある。意外と起伏のあるコースだ。
タイムの目標はほとんどなかった。5:00ペースよりは早く走って、トータル1:40:00を切るくらいかなって程度。実際、入りの1kmは4:30くらいだった。それでも、やっぱりレースというものは、自然とペースが上がるらしい。ちょっと前に抜けそうなランナーがいると、抜いていっちゃう。そうすることでペースが上がる。2km以降はずっと4:10前後まで上がってた。そうなるとサブ3ペース。1:30:00切りだ。体調自体が良かったのかもしれない。でも一番の要因は、朝起きてから、ちゃんと時間経って走り出してるから、体が覚醒してるってのが大きいだろう。朝3:30には出せないペースだ。
曇りではあったけど、気温はしっかり上がってて、昼前には29℃まで達してたようだ。汗が滴り落ちる。普段走る時間とは勝手が違う。
後で振り返ると、中盤でややペースが落ちてる。暑さは如実にスタミナを奪う。周りのランナーも、レースが進むに従って、明らかにペースが落ちる。それを抜いていくことで、また気持ちが盛り立てられる。後半は軽くランニングハイになってたようで、徐々にペースが上がっていったし、それによる負荷を全く感じなかった。前のランナーを抜くのは、気分いいもんだけど、特にいいのは、前半に一度抜かれたランナーを、後半で抜き返すこと。今回は何人かそれを達成できた。優越感に浸れる瞬間だ。抜き去る前に後ろ姿は見えるけど、抜いた後の表情は見えない。どんな顔してんだろうなって想像する。きっと悔しいはずだ。不快な表情するんだろうな。そもそもレースの後半なんて、みんな不快な表情してるんだろう。走ってると、それ見れないんだよね。
後半はペースを保ち続けたままゴール。タイムは、1:32:25(ネット)。想定してたよりだいぶ早くフィニッシュできた。十分だ。いい走りができたと思う。
さあ、あとは北上を楽しんで帰ろう。
会場の近くの広場に何軒か出店が出てた。
まず「北上コロッケ」のお店がある。
朝の気のいいタクシードライバーとの会話で「北上は何が美味しいんですか?」と聞いたら、「この辺は、コロッケだあ。」と返ってきた。何が特徴かっていうと、里いもを使っているとのこと。「北上川は、さといもの産地なんですよ。」それはおもしろい。
「おいしいんですか?」と聞いたら、「オレは食ったことねえんだ。」だって。
おいおい😅
まあ、とりあえず食べてみよう。2つで500円。ソースが3種類あって、味変えながら食べれる工夫がされている。
感想は「うん、悪くない」って程度。じゃがいもに比べてねっとりしてて、衣のサクサク感との対比はとてもいい。ソースはトマト系、カレースパイス系、麻辣系とあって、どれも相性はいい。でも、すごくおいしいってほどじゃないかな。
あとはホットサンドが売ってたんで、それも食べた。ヴィーガン用だそうで、野菜たっぷり。あとはギョーザが中に入ってる。これもまた「悪くない」って感じ。こっちは多分地元名産てこともないんだろう。
ただ、大きなポイントは、朝から長時間移動して、しかも長距離走をしたあとに食べる初めての食事だってこと。たいていのものは、十分に気分も腹も満たしてくれる。今日たまたまカバンの中に入ってた本が、小石川図書館で借りたレイモンド・チャンドラーの「さよなら、愛しい人」だったけど、チャンドラーの別の小説の中で好きな一説がある。
「トーストされ、二本の楊枝でとめられ、レタスがわきからはみ出していれば、アメリカ人はどんなものだって文句を言わずに食べる。」
この「アメリカ人」の部分を「走り終えた後のランナー」に変えればいい。食に対する満足の閾値が低いことは、とても得なことだ。

会場を後にして、今度はゆっくりバスで北上駅まで戻った。せっかく北上に来たんだから、北上川を見ていこう。
駅の東口から歩いて行ける。幅の広いスケールの大きな川だ。川沿いには「展勝地公園」ていう桜の名所がある。もちろん桜は咲いていないけれど、川に沿ってキレイな並木道は見える。中にはかなり樹高の高い桜もある。ソメイヨシノ以外の品種もあるようだ。公園の対岸の川沿いをしばらく散策。隅田川みたいなテラスコースはないけど、堤防の上に真っ直ぐ伸びる道は整備されてて、案の定、ランナーとすれ違う。やっぱりこの川沿い走りたくなるよな。自分もここに住んでたら、必ずランニングコースにしているだろう。
10-feetの「River」っていう曲がある。とっても好きな曲で、文字通り川がモチーフになってる。歌詞の中に「枯れるまで~ 流れゆく~ 河」という箇所があって、その「河」の部分を、ライブする場所によってアレンジしていく。例えば東京だったら、「隅田川」と歌うし、小田原だったら「酒匂川」と歌う。きっと北上なら「北上川」って歌うんだろうな。川はランナーにとっては親密な場所。いろんな場所へ旅行に行くと、いろんな川に出会う。その一つ一つを心に留めたいなって思う。

まだ大手を振って旅行できる状況でもないんで、今日は日帰り。帰りも3時間かけて上野まで戻ってきた。
2021年に入って、ひとつも新たな都道府県増やせず滞ってたこの企画。6月後半になって、ようやく一歩進めたのは何にしても良かった。
とりあえず夏は怪我をせずに過ごし、秋からの本格的な遠征再開を見据えて、平穏に走っていきたい。
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